研究概要 |
脳幹、視床下部から見いだされたPrRP(プロラクチン放出因子)は、ストレス(ACTH応答)調節因子としても働き、ストレスフリーの軽運動でも脳内で活性化する(Ohiwa,2006)。そこで、ストレス応答を惹起しない低容量PrRPを脳内に運動前投与すると、運動時の乳酸・ストレス反応が減弱した(Ohiwa, Am.J.Physiol.Regul.Integr.Comp.Physiol., 2007)。これは運動効率を高める分子機構として重要かも知れない。今回は、この脳機構を暴くためPrRPによる視床下部神経活動抑制効果を調べた。Wistar系雄ラットへの脳室カテーテルを通じて1nmol PrRPを脳室内投与した後、走運動(25m/min,30分)を行わせ、神経活動の指標となる核タンパク質Fosの発現細胞数を視床下部で網羅的に計測した。その結果、PrRP前投与群は対照群に比べ、室傍核や視索上核の神経(AVP神経など)を含むほとんどの神経核(でFos陽性細胞数を有意に減少させた。ストレスを惹起しない低容量のPrRPの事前投与は、ストレス時の視床下部興奮を脱感作させることでストレス反応を減弱させることを示唆する。ストレス反応の閾値には達しないものの、ストレス反応と重複する視床下部神経機構を適度に活性化することで、その後の運動効率やストレス応答を減弱させるとすれば、軽運動によるwarming up効果の機構として働いている可能性が出てきた。これは体育・スポーツ科学の古くて新しい課題とも考えられ、今後検討する必要がある。
|