研究概要 |
身体トレーニングによる骨格筋の適応の分子メカニズムには不明な点が多い。本研究では、ラットを対象とした5日間の高強度及び低強度の水泳トレーニング後の骨格筋を骨格筋のプロテオーム解析(proteome analysis)をもちいて、タンパク質の発現変動を網羅的かつ定量的に検出した。2D-DIGEによって骨格筋で発現変動するタンパク質を解析し、興味あるタンパク質スポットを質量分析(MALDI-TOF/MS)によって同定した。その結果、LITはプロテオーム解析により有意に1.3倍以上発現が増減したスポットが22個存在し19個のタンパク質を同定した。HITでは有意に発現が増減したスポットが13個存在し、13個すべてのタンパク質を同定した。そのうちLIT、さらにHITでも数多くのミトコンドリア系酵素の発現が増加した。このうち、共通して発現増加したタンパク質はATPsynβ、OGDH、m-MDHの3種類であった。これまでに運動との関連で報告のないタンパク質(ATPsynα,NDUFS1,-2,UQCRC1)が同定された。これらの結果より、高強度トレーニングにより骨格筋の有酸素性代謝能の改善に関係の深いミトコンドリアタンパク質が発現増加することが明らかになった。速筋線維で発現が高い筋弛緩因子であるparvalbumin(PV)が、どの運動トレーニングによっても共通して発現減少した。特に、高強度の運動トレーニングでこのPVが減少することが初めて明らかとなった。ミトコンドリアの酸化系タンパク質の発現にPVが影響を与えている可能性を示した先行研究と本研究の結果から、PVの減少は必ずしも筋弛緩の機能低下を示しているのではなく、このタンパク質の発現と、筋の酸化的代謝能力(ミトコンドリア酵素活性の上昇など)の向上との関係があることが示唆された。
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