研究概要 |
擬態語の音象徴性は感覚経験と抽象的な言語シンボルの橋渡しをするような役割を果たしている。つまり,先天的に聴覚入力がない聴覚障害者は擬態語処理に影響を受けると考えられる。今年度は(1)擬態語と音象徴性のない通常語の脳内表象がどのように異なるのかという脳科学実験と,(2)その結果を具体的に聴覚障害者の教育に展開するための教材開発を行った。 (1)「健聴者を対象にした擬態語・動詞・副詞の処理に関連する脳部位をfMRIで明らかにする実験:単語と動画の適合度の高低で2分して解析を行った結果,擬態語では動画との適合度が高い群も低い群も共通して右Superial Temporal Gyrus(STG:上側頭回)の賦活が認められ,その他の品詞では右STGの賦活は認められなかった。擬態語のみ,適合度が高い時は右一次運動野が,低い時は右運動前野の賦活が確認された。動詞・副詞・擬態語の品詞の区別に特別意識を向けていないにも関わらず品詞内での賦活領域が異なり,擬態語で特異的に賦活している領域は右半球に偏っていた。擬態語では,右縁上回,両側Inferior Frontal Gyrus(IFG:中前頭回)の賦活が顕著に認められた。擬態語の賦活領域は動詞,副詞よりも範囲が広く,より異なる感覚モダリティを統合する領域が左だけでなく右半球でも賦活していることが明らかになった。この結果は,擬態語が動詞や副詞などの音象徴性のない語に比べ,複数の感覚モダリティの共感覚性を伴い感情とも深く結びついた世界との直接経験により設置した,抽象度の低い言語形態であるという仮説を指示するものであった。(2)「マルチメディア技術を用いた共感覚性を促進するような擬態語アニメ教材の試作:聾学校で教材の評価実験を実施した結果,擬態語・擬音語等の言語獲得の教材として期待できるという評価を得た。 次年度は聴覚障害者と健聴者の詳細な比較分析と教材の改良を行う。
|