研究概要 |
中国揚子江流域の湖北省と浙江省,遼寧省,および韓国において野生ウルシと栽培ウルシ,および他のウルシ属植物の標本採集と生育環境の調査を行った。その結果,栽培ウルシと,野生ウルシ,ウルシ以外のウルシ属植物の生育の有無と,漆液の採取は地域ごとにかなり異なっていることが明らかとなった。野生ウルシと栽培ウルシが共に生育しているのは湖北省の西部のみであり,ここでは,栽培ウルシだけなく,漆畑周辺の野生ウルシでも漆液の採取が行われていた。またこの地域ではウルシ以外のウルシ属植物は生育していなかった。それより東側の湖北省東部と浙江省ではウルシを栽培している地域で漆液の採取が行われていたが,野生ウルシは生育しておらず,ウルシ以外のウルシ属植物が野生していた。一方,野生ウルシが見られた遼寧省では,漆液の採取が行われていなかった。韓国では原州を始めとする3カ所ほどでウルシが栽培されていて漆液の採取が原州で行われていたが,野生ウルシは生育していなかった。外部形態の観察では,湖北省のウルシは他の地域のものと比べて葉の羽片の数が多く,個体群として他の地域のものと異なっていることが考えられた。葉緑体DNAのtrnL + trnL-F領域の塩基配列は,日本,韓国,遼寧省のものはまったく同じで,浙江省のウルシは少し異なっており,湖北省のものは他と明瞭に異なっていた。ただし,現時点ではヤマハゼとハゼノキの配列に違いが見られないなど,他の領域の解析と合わせて対比する必要が指摘された。また漆液の採取方法にも地域性があり,中国では樹皮に大きな切り目を開ける方法が用いられており,日本および韓国の平行に筋をつけていく方法とは異なっていた。日本では明治以降農商務省が盛んにウルシの栽培を奨励してい1たことから考えて,韓国および遼寧省のウルシは日本がこれらの地域を占領していた時代に日本からもたらされた可能性が考えられた。
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