研究概要 |
中国の河北省と,西日本の高知県,岡山県,奈良県,大分県において野生ウルシと栽培ウルシ,および他のウルシ属植物の標本採集と生育環境の調査を行った。河北省では野生ウルシから漆液採取がもっぱら行われており,ごく小規模な漆畑が1カ所見られただけであった。この地域は全般に乾燥しており,野生ウルシは山稜に近い小さな谷の中に生育しているのみであった。西日本では岡山県西部で最近まで漆液の採取が行われていた漆畑で試料を収集した。掻き子の方によると東日本のウルシに比べて樹皮が薄く,漆液の性質も異なるとのことで,ウルシに種内変異が認められる可能性が考えられた。西日本のそれ以外の地域では,ウルシが数個体ずつ点々と生育していることが確認できたが,漆液の採取はかなり昔に途絶えていて掻き跡も見つからなかった。これまでに収集した中国,韓国,日本の試料を使ってDMのSSRマーカーの解析を行った。解析したのは葉緑体のNTCP40マーカーと,核のSt-16マーカーとPtms-14マーカーである。NTCP40マーカーは,日本と,韓国,遼寧省,浙江省ものはまったく同じで,湖北省と河北省のものは別のタイプであった。St-16マーカーは,湖北省と河北省にはホモとヘテロの3タイプがあり,日本と,韓国,遼寧省,浙江省ではこのうちのホモ1タイプとヘテロ1タイプがほとんどであるが,日本にも1個体だけ3番目のホモタイプが認められた。Ptms-14マーカーは,湖北省と河北省にはホモとヘテロの各1タイプがあり,それ以外の地域ではすべてこのうちホモのタイプであった。解析したSSRマーカーは予想外に変異が少なく,ウルシの個体群の詳細な解析は行えなかったが,解析結果はいずれも昨年度解析した葉緑体DNAのtrnL+trnL-F領域の解析結果を裏付けるものであった。
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