研究概要 |
本研究では,細胞増殖のマーカーとして細胞生物学,医学等の分野に汎用されているプロモデオキシウリジン(BrdU)を,海洋微生物自然群集の増殖応答解析に利用する独自のアプローチ「ヌクレオシドトレーサー法」よって,海洋における炭酸ガスやジメチルサルファイド(DMS)といった気候開連ガスの動態に,強い影響を及ぼす微生物KeySpeciesを特定し,最新の分子微生物生態学的手法を駆使して,その動態を解析することを目的とする。 (1)有機物質循環を駆動する鍵となる微生物系統群(KeySpecies)の特定 外洋域,沿彬域を含む様々な海洋環境試料について解析を行った結果,63鍵種(Alphaproteobacteria27,Betaproteobacteria2種,Gammaproteobacteria7種,CFBグループ14種,Gram-positive bacteria9種,Cyanobacteria4種)を特定することができた。既報の16鍵種とあわせて解析した結果,沿岸域,外洋域にそれぞれ特異的な鍵種と,両海域に共通な鍵種の存在が示唆された。また,それらの時空間的な変動と環境条件の変動から,生態的ニッチの違いにより鍵種をタイプ分けした。 (2)特定細菌系統群の増殖応答解析(DMSP添加実験) 自然細菌群集を含む海水に,UMSP(市販試薬として入手可能)を添加し,現場温度で一定時間培養し,船上にてDMSの生成をモニターした。さらに,これに応答して増殖してくる細菌種をヌクレオシドトレーサー法によって標識し,現在解析中である。南大洋における3回の添加実験の結果,1点では添加したDMSPの消費に伴うDMSの増加が観察され,2点ではDMSPの消費は観察されなかった。これらの実験系における微生物群集動態の比較解析により,DMS生成に関わる細菌系統群の特定が期待できる。
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