表記課題を遂行するためのサブプロジェクトとして平成18年度は3項目について研究を実施し、以下に述べる成果を得た。(1)無機炭素濃縮機構(CCM)の中心となる分子機構の解明のために、海洋性珪藻Phaeodactylum tricornutum葉緑体カーボニックアンヒドラーゼ(PtCA1)の局在を決定する機構を調べたところ、PtCA1が葉緑体ガードルラメラ上に顆粒を形成する分子機構としてPtCA1のC末端ヘリックスに存在する疎水性クラスターが必須の働きを持つことが明らかとなった。この局在特性のCCMとの生理的つながりをさらに調べるために、CO_2固定酵素であるRubiscoとの局在比較を行った。現在Rubisco小サブユニット遺伝子(rbcS)をクローニングし、egfpあるいはcfpで蛍光標識後、P.tricornutum内で発現させることにより、CO_2流路調節系であるPtCA1とCO_2固定系であるRubiscoとの機能的連携を調べている。(2)海洋表層のCO_2濃度に応答して一次生産効率を制御するための分子機構を探るため、典型的なCO_2応答性を示す、ptca1プロモーター領域内の機能配列を塩基削除および塩基置換により精査した。その結果、ptca1プロモーターの転写開始点から上流70塩基までに存在する、cAMP応答配列CRE1およびそれに隣接するp300結合配列が高CO_2環境下および光の非存在下における転写抑制に必須の働きを持っことが明らかとなった。この結果はPlant Physiol.(2006)142巻に掲載済みである。(3)今世紀半ばまでの間に予想される海洋表層の環境変動のうち、CO_2濃度および塩濃度の変動に対して細胞が示す挙動を遺伝子発現レベルで追跡するためにAmplified fragment length polymorphism(AFLP)法を用い、発現変動遺伝子群をP.tricornutumで半網羅的にスクリーニングした。現在、塩およびCO_2応答性を確認した遺伝子それぞれ14および30を単離した。
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