研究概要 |
表記課題を遂行する為に設定したサブプロジェクトとして、平成20年度は3項目について、研究を実施し、以下に述べる成果を得た。1.無機炭素濃縮機構(CCM)の中心となる分子機構解明のために、ゲノム上にコードされる8種のカーボニックアンヒドラーゼ(CA)の局在解析、およびこれまで解析が進んでいる葉緑体型CAであるPtCA1の活性調節機構を調べた。その結果、これまで葉緑体内に局在が確認されているPtCA1,2以外の6種のCA候補はすべて、葉緑体辺縁部の2次共生藻特有の4重胞膜系に存在し、葉緑体周辺部の複雑な膜系がCAの働きで無機炭素流路の制御ポイントとなっていることが強く示唆され、珪藻におけるCO_2獲得機構の重要な過程が明らかになりつつある。一方、PtCA1を精製し、活性調節機構を調べたところ、ホウレンソウ由来チオレドキシンおよびDTT存在下で活性が2倍程度上昇することが分かった。2.CCMを海洋表層のCO_2濃度変化に応じて、サイクリックAMPを二次メッセンジャーとしながら、転写レベル調節する分子機構を詳細に解析した。平成19年度に決定した新規CO_2応答性プロモーター構造の核になるシス領域配列をCCRE1-3と名づけ、ここに相互作用する転写因子をゲルシフト法により探索した。その結果、ヒトendoplasmic reticulum (ER) stress-regulated transmembrane transcription factor 6(ATF6)の珪藻ホモログのうち少なくとも3種(PtbZIP2, 3, 7)がCCRE配列をターゲットとすることが明らかとなった。このことは珪藻のCO_2応答が、哺乳類のシグナル伝達系に類似した系を利用していることを示唆している。3.変化しつつある海洋環境因子として、海洋の塩分濃度低下に応答する遺伝子を探索した。その結果、塩濃度が低くなると酸化ストレスが高まりアスコルビン酸の生合成系が活性化されることが分かった。
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