研究概要 |
本年度は,PAR(光合成有効放射)の変動と陸域光合成や大気と陸面の二酸化炭素交換に関する解析を行った。その中でも重要な研究テーマとして,全天および散乱PARの観測を複数の異なる環境で実施した。昨年度より実施している中国国内の青海-チベット高原の海北サイト,タイ国北東部のピマーイサイト,西カリマンタンのプッシバウサイトにおいて,継続してデータを収集した。また,チベットサイトでは,炭素収支を把握するために,植生調査,リモートセンシングデータの検証データ取得,同位体サンプルの収集などを行った。PARの日変化や日々の変動をプッシバウサイトで詳細に検討したところ,非常に強い全天PARが観測された。データの更なる解析の結果,これは雲の不均一な分布が地表面に入射するPARを増加させていることが明らかとなった。例えば,日中の時間の21%において,快晴時より10%以上全天PARが増加していた。また,日中の時間の86%において,快晴時より120%以上の散乱PAR成分の増加がみられた。散乱PARの影響を考慮した雲分布に起因するPARの増加の観測データは,おそらく世界で初めてのものと思われる。雲の増加に起因するPARの増加が森林の群落スケールの光合成に与える影響をモデルで調べたところ,熱帯地域では光合成速度が11-12%増加することが明らかとなった。このように本年度の結果から,熱帯林の光合成有効放射の吸収量と炭素循環に関する新しい知見が得られた。
|