研究課題
基盤研究(B)
硫化カルボニル(COS)の対流圏濃度は500pptv前後であり、硫黄化合物の中では大気中で最も豊富に存在する化合物である。COSは成層圏硫酸エアロゾルの主要な原因物質のひとつであり、地球環境に与える影響が予想されることからその動態の解明が急務となっているが、自然界の物質循環の基礎となる土壌微生物による分解についての研究はきわめてわずかである。本研究は土壌微生物の働きによるCOS分解を比較することで、大気微量成分であるCOSの消長における微生物の役割を明らかにすることを目的とする。気体状硫黄化合物であるCOSの分解菌密度を計数する方法を考案し、それを用いて富士山、唐沢山、三宅島をはじめ複数の土性の異なる土壌のCOS分解菌を調べた。その結果、特に土壌有機物含量の高い土壌では分解菌密度も高く、また遺伝情報を用いた方法でその種類を調べたところ、きわめて多種類の菌によって構成されていることが明らかとなり、土壌微生物が大気COSの吸収源として機能していることが示された。分離された菌株を用いてCOS分解をみたところ、ppmvオーダーを分解する菌株に比べ大気濃度である数百pptv前後のCOSを分解する細菌はその種類が限られ、しかもその多くが土壌環境に広く生息することが知られる放線菌のグループに属するものであることが明らかとなり、大気COSの消失に直接機能する微生物であることが示唆された。これらの細菌株の中からMycobacterium sp. THI401株を選び、その分解酵素をすでに精製が成功しているThiobacillus Thioparus THI115のCOS分解酵素と比較するために、分離を試みたところ粗抽出液に比べ約17倍まで活性が高められた。T. thioparus THI115のCOS分解酵素遺伝子のクローニングを行い、大腸菌細胞における大量発現とそこからの酵素精製に成功した。
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