研究概要 |
研究の全体計画に従い,最終年度である本年度は次の研究を実施した. 1.森林内物質収支に及ぼす森林管理状態の影響評価:前年度までの現地観測を継続し,森林土壌内水分状態と有機物分解状態との関係を検討した.その結果,間伐未実施林に比べ間伐実施済林では,土壌水分状態が高く,土壌内生息微生物数も多く,土壌呼吸量が大きくなることが明らかになった. 2.森林内物質収支に及ぼす気温上昇および降水パターン変化の影響評価:上述の現地観測より,気温上昇や無降水期間長期化に伴う林床土壌の乾燥化傾向は,土壌の粒度分布において細粒土砂割合が少ない間伐未実施林において顕著となることが明らかになった.また,こうした細粒土砂は,放置人工林では降雨流出しやすいが,間伐後1年以上が経過すると,徐々にその流出が抑制されてくることも判明した.一方,岐阜県と長野県におけるアメダス観測点での過去28年間の気象・水文データに対して極値統計解析を適用した結果,平野部よりも山地森林域において短時間集中的降水の発生確率が増大しており,その傾向が測点周囲の平均斜面勾配に比例することが明らかになった. 3.流域環境変化に対する森林管理の経済効果評価:これまでに構築された森林管理・木材利用によるCO2収支・経済影響評価モデルを長良川流域に適用した結果,木材の建設用材への利用に比べ,発電や燃料への利用の場合,炭素固定量・社会的純便益が少なくなることが明らかになった.また,林齢が平準化していない現状で森林管理と木材利用を継続すると,25年後には間伐材が枯渇することも推定され,森林管理そのものの計画を早急に見直す必要があることが判明した.
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