研究概要 |
初年度には,生物多様性,自然再生の理念に関かかわる環境倫理学的な問題の図式が整理されてきた。このことを踏まえて,今年度は,二つの方向性で研究を遂行した。(1)「重点的な研究のフィールドにおける自然科学との融合を意識した人文社会科学的なインテンシブな調査」-理論的研究と実証的な研究が有機的に結びつけられるように,いくつかの実証研究を,研究分担者で分担し,特に地域再生の視点を重点的に検証した。(1)広い意味での自然再生的な事業として,茨城県霞ケ浦地域,兵庫県豊岡,長野県佐久,志賀高原,北海道釧路湿原に知床地域等),(2)里山保全(琵琶湖周辺,埼玉県くぬぎ由等),(3)野生動物との関係(青森県脇野沢等)において調査を展開した。その中でも,釧路湿原と霞ケ浦,くぬぎ山の法定協議会による自然再生事業が行われている地域で,事業がうまくいっていない原因が,地域再生との関連で理念にかかわる問題であることを摘出し,重点的な研究の必要性が明確になった。(2)「フィールドの現場での現地研究会」では,長野県佐久地方における,佐久鯉を中心に据えた広い意味での自然再生事業で,現地のステイクホルダーの人たちも含めて,問題を共有し,理念的な研究を深化させるための研究会を行った。また,京都で,元国交省の河川管理者で,現在淀川水系流域委員会の委員長の人に対するインタビューを行い,流域での生物多様性保全,自然再生の理念にかかわる問題を共有し,現場に則した新たな理念を摘出するのに成功した。それに加えて,海外における生物多様性保全政策の現地調査(ブラジル,リオ,デ,ジャネイロ)や国内における国際シンポジウムへの参加によって,海外の視点から日本の生物多様性保全の政策の理念を検証した。そのような成果は,現在,東大出版会から『環境倫理学一二項対立図式を超えて』として結実させるように,編集作業を行った。次年度に出版される予定である。
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