研究概要 |
日本,インドネシア,スリランカの3カ国でダム開発に係る住民移転について調査を行った。 日本では,神奈川県の宮が瀬ダムについて調査した。1969年に建設事業が開始され,1998年に運転が開始された宮が瀬ダムでは「県内最高レベルの」といわれる水没住民支援が行われた。移転した住民の評価もかなり良いと結論できる。しかし,合意形成と移転事業には20年の歳月を要し,総工費3993億円とは別に,少なくとも783億円という間接的補償費が投じられていた。宮が瀬ダムの事例は,移転住民に評価されるダム開発を行うためには,これまでに考えられてきた以上の時間と費用を投じる必要があることを示唆している。 インドネシア,スマトラ島に建設されたコトパンジャン・ダムにより,移転を余儀なくさせられた世帯は,リアウ州と西スマトラ州の4.886世帯であった。移転は1993年に始まり,ダム湖の湛水が開始された1997年に終了した。生活の向上が見られたのは移住民の40%以下に過ぎない。リアウ州の二つの村では生活の向上が観察されたが,西スマトラ州の二つの村では貧困化が観察された。西スマトラでは,60%以上の人々が,移転後の方が生活は悪化している。 スリランカのマハベリ計画では,コトマレ・ダムによって13,000人が,ヴィクトリア・ダムによって45,000人が移転した。そのため,乾燥地域に新たな居住区が建設され,政府によって基本的なインフラ整備が行われた。住民には遠隔の乾燥地域だけでなく,川に近い既存の村に移転する選択肢も提供された。後者を選択した世帯には,やや小さい農地が提供された。移転から20年が経過したが,前者に移転した世帯の方が,後者に移転した世帯より良い経済状態にある。しかし,前者であっても,当初期待していた利益を享受しているか否かについては,疑問の余地が多い。
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