研究概要 |
本研究では,釧路湿原の自然再生事業を対象に経済実験を実施することで,事業計画の合意形成プロセスの問題点を分析した。また,環境評価手法を用いることで,自然再生事業における代替案の経済的評価を行うとともに,観光利用などの地域経済への影響を検討した。 本年度は自然再生事業の代替案の評価を行った。釧路湿原周辺では自然再生事業として湿原に流入する土砂を削減するために,(1)河川の再蛇行化,(2)沈砂池(ため池)の設置,(3)森林の整備・再生などの事業が行われている。また自然再生事業は,始まって間もないことから事業が必ず成功するとは限らず,実施後にモニタリングにより事業内容を見直す必要性が指摘されている。そこで,これらの3つの事業と,土砂の削減量,そして事業の成功する確率をもとに代替案を作成し,選択型実験を用いてそれぞれの代替案の評価を行った。 条件付きロジットモデルにより推定を行ったところ,3つの事業のなかで最も価値の高いのは森林の整備・再生であった。しかし,ランダムパラメータロジットモデルおよび潜在セグメントモデルにより推定すると,各事業に対する人々の価値観は多様であり,価値観の対立が見られることが分かった。たとえば,森林整備と河川再蛇行化を見ると,両者とも重視するもの,河川より森林を重視するもの,森林より河川を重視するもの,どちらも重視しないもの,など様々な人々が存在することが明らかとなった。これより,たとえ森林整備が最も高い価値を持っているとはいえ,価値観が多様なことから合意形成は容易ではないことが予想される。この選択型実験の評価結果と,昨年度までに実施した合意形成実験の結果をふまえ,今後の自然再生事業の意志決定の課題について検討した。
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