研究概要 |
DNA-タンパク質クロスロスリンク(DPC)は,放射線やアルデヒドによりタンパク質がDNAに共有結合して生じるゲノム損傷であるが,その修復機構は解明されていない。昨年度行った原核生物(大腸菌)を用いた遺伝学的解析の結果,DPC修復にヌクレオチド除去修復(NER)と相同組換えの関与が示唆された。本年度は,原核生物のNER酵素として働くUvrABCヌクレアーゼとDPC基質を用い,in vitroにおける同酵素の活性を検討した。さらに,DPC誘発剤で処理した大腸菌細胞からゲノムDNAを単離精製し,DPCの除去動態を調べた。 種々のタンパク質を含むDPC基質に対するUvrABCのDNA鎖切断活性を調べた結果,クロスリンクタンパク質(CLP)のサイズが増加するとともに,切断活性が低下することが示された。in vitroで切断されるCLPの上限サイズは,12-14kDaであった。さらに,ゲルシフトアッセイにより損傷認識ユニット(UvrB)のDPC-DNAに対する親和性を調べた。その結果,UvrBのDPC-DNAに対するローディング効率はCLPのサイズ増加とともに低下し,切断活性と同様なサイズ依存性を示した。したがって,DPCに対するUvrABCの活性低下は,UvrBに対するCLPの立体障害が原因であり,その結果,ヌクレアーゼユニット(UvrC)が損傷部位にリクルートされないためであることが明らかとなった。DPC誘発剤としてformaldehydeを用い大腸菌を処理し,post repair incubationを行った。修復野生株ではゲノムに含まれる11 kDa以下のCLPが経時的に減少したが,NER欠損株では減少は認められなかった。この結果は、in vitroにおけるUvrABCの活性データとよく一致し,DPC修復におけるNERの役割が生化学的に解明された。
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