放射線によるゲノム不安定化の特徴は、被ばく細胞だけでなく、その子孫細胞にもゲノム不安定化が生じることである。そこで、この放射線によるゲノム不安定化の記憶と伝搬のメカニズムを明らかにするために、被ばくヒト染色体を被ばくしていないマウス細胞に移入する染色体移入法を用いて調べた。染色体異常は、ヒト染色体特異的な蛍光ラベルプローブを用いた染色体蛍光着色法(FISH)を用いて解析した。まず、被ばくしていないヒト6番及び8番染色体を移入し、計10種の染色体移入細胞について調べたところ、9種では全く異常は見られず、残り1種もわずか6%の細胞に染色体異常がみられただけであった。これに対して、4Gy被ばくしたヒト6番及び8番染色体を移入した計11種の染色体移入細胞では、35%以上の細胞に染色体異常が見られたものが4種(36%)見られた。このことは放射線ばく染色体自体が子孫細胞に染色体不安定化を伝搬する媒体になっていることを示している。さらに、染色体不安定化の原因を探るために、サブテロメア領域の安定性についてサブテロメアFISH法で解析した。その結果、被ばくしていない染色体はサブテロメア領域に異常があっても不安定化しないが、被ばく染色体ではサブテロメア領域に異常があると、不安定化しやすいことが明らかになった。このことは、サブテロメア領域の再配列だけでは染色体不安定化は生じないが、サブテロメア再配列を持つ染色体には放射線被ばくによって遅延性に不安定化するポテンシャルが付与されることを示している。
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