本研究では、放射線によるゲノム不安定化がどのように被ばく子孫細胞に伝達されるのかを明らかにするために、被ばくしたヒト染色体を被ばくしていないマウス不死化細胞に移入し、染色体受容細胞中での被ばくヒト染色体の安定性について調べた。平成19年度までの成果により、被ばくしていないヒト染色体は受容細胞中で安定であるのに対し、4Gy被ばくしたヒト染色体を移入した受容細胞では、高率(35%以上)に染色体異常を示すものが11種中4種(36%)見られることが分かった。今年度は、さらに実験例を増やしてこれを検証した。4Gy被ばくしたヒト8番染色体を、微小核融合法を用いてマウス不死化細胞に移入し、8種の微小核融合細胞についてヒト8番染色体の安定性を調べた。その結果、2種(25%)の細胞において、調べた細胞の96%以上に染色体異常がみられた。これに対し、被ばくしていない8番染色体を移入した2種の細胞では、全く染色体異常はみられなかった。これまでの成果を総合すると、4Gy被ばくしたヒト染色体を移入した19種の細胞のうち、高率(35%以上)に染色体異常を示したものは6種(32%)であり、被ばくしていないヒト染色体を移入した12種の細胞では、高率に染色体異常を示したものは0%であった。以上の結果は、放射線被ばくした子孫細胞でゲノム不安定化が生じる原因は、被ばくした染色体自身に存在し、被ばく染色体1本でも子孫細胞にゲノム不安定化を伝搬し得ることを示している。
|