バイスタンダー効果により非照射細胞(バイスタンダー細胞)に誘導される細胞損傷の実態を明らかにする目的で、研究計画書『項目別目的3:バイスタンダー効果によって誘導されるクロマチン損傷の実態の解明』に記載した細胞照射法を用いて、ヘリウムイオンマイクロビーム照射によって生成されるクロマチン損傷を直接照射細胞とバイスタンダー細胞に分けて解析した。細胞は、ヒト気管支由来の正常上皮性細胞を用いた。クロマチン損傷は、カリキュリンAによって誘導されたG_2期の凝縮クロマチン(G_2-PCC)を光学顕微鏡下で観察し、クロマチン損傷として、chromatid gaps、chromatid breaks、isochromatid gaps & deletions、を検出した。ヘリウムイオンマイクロビームを直接照射された細胞には、通常低LETX線照射で観察されるchromatid-typeの損傷(chromatid gaps、chromatid breaks)に加えて高LET放射線で観察されるisochromatid gaps & deletionsが生成された。また、クロマチン間のexchange-typeの損傷も観察された。一方、ヘリウムイオンを直接照射されず、直接照射細胞の近傍に存在していたバイスタンダー細胞には、chromatid-typeの損傷のうちchromatid gapsとchromatid breaksしか観察されず、直接ヒット細胞で生成された高LET放射線タイプであるisochromatid gaps & deletionsが全く誘導されないことが判った。以上の結果から、ヘリウムイオンマイクロビーム照射によって誘導されるバイスタンダー効果では、直接ヘリウムイオンを照射されていないバイスタンダー細胞に低LET放射線で生成されるクロマチン損傷と同質の比較的複雑でない損傷のみが誘導されることが示唆された。
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