平成18年度に確立した全細胞数のうち約0.2%の細胞のみに選択的にマイクロビームを照射する方法を利用して、日本原子力研究開発機構重イオンマイクロビーム照射装置の炭素・ネオン・アルゴンイオンマイクロビーム、高エネルギー加速器研究機構単色軟X線マイクロビーム、放射線医学総合研究所プロトンマイクロビームを用いて、ヒト正常細胞の突然変異に関するバイスタンダー効果誘導の放射線線質依存性を調べた。ヒト正常細胞は、理化学研究所BioResource Centerより供給されたヒト胎児皮膚由来正常線維芽細胞を用いた。突然変異はX染色体上のhprt遺伝子座を標的遺伝子として6チオグアニン耐性クローンの出現頻度より誘発頻度を算出した。突然変異誘発効果は非照射コントロールに対してプロトンで4.2倍、炭素イオンで6.3倍、ネオンイオンで2.4倍高い誘発頻度を示したのに対して、X線とアルゴンイオンではコントロールと有意な差がなかった。また、ギャップジャンクション特異的阻害剤を併用することによって高頻度に誘発した突然変異はコントロールレベルまで減少した。今回得られた結果は、突然変異が放射線が直接ヒットした細胞のみに生じ、非ヒット細胞には起こらない、と仮定すると、放射線が照射された細胞が0.2%しか存在しない細胞集団に生ずる結果として説明することが出来ず、非照射細胞の一部にも二次的・三次的な何らかのメカニズムによって突然変異が誘導されたと考えることが必要となる(バイスタンダー効果の誘導)。また、観察されたバイスタンダー効果はギャップジャンクション特異的阻害剤を併用した場合コントロールレベルまで復帰することから、バイスタンダー効果誘導にはギャップジャンクションを介した細胞間情報伝達機構が密接に関与していることが示唆された。さらに、バイスタンダー効果の誘導には、放射線の線質依存的であることが示唆された。
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