研究課題
サンゴ礁生態系を永続的に修復・保全するためには、人の手を入れないで自立的に回転するシステムが必要である。本来、生物にはダメージを修復する能力が備わっており、サンゴにも様々な修復システムが機能している。本研究計画では、サンゴの自己修復システム(自然治癒力)を強化することによってサンゴ礁生態系の基盤であるサンゴを再生・維持し、生物間の正の連鎖作用を用いて環境を修復する新しい技術を開発を目指している。そのためには、サンゴのダメージと修復の生理学的研究に加えて、物理的環境要因のサンゴに与える効果の科学的知見を確立する必要がある。本年度は、サンゴ白化抑制に働く物理的環境要因の検討と生物学的保護機能に関する研究をおこなった。主な研究成果は以下の通りである。(1)遮光によるサンゴ白化抑制効果:屋外水槽によるサンゴの長期飼育を行い、太陽光の遮光による白化抑制効果を調べた。その結果、夏の高海水温度条件で飼育したミドリイシ類には、遮光によって顕著な白化抑制効果があることが認められた。この遮光による白化抑制効果は、サンゴ種間で大きく異なり、種によっては成長抑制がおきることが明らかとなった。(2)波の白化緩和効果:無風状態の礁池では、しばしばサンゴの白化が見られる。そこで、波面変化による光の揺らぎの効果を検討した。人工的に水面上に波を発生させ、光強度を変えてサンゴの光合成活性変化を調べた。その結果、波によって生じる水面レンズ効果により、光拡散が発生し、サンゴ光合成阻害が抑制されることが明らかとなった。(3)無節サンゴモによる富栄養化環境の改善:サンゴ礁衰退原因の一つとして都市化にともなう海水の富栄養化が考えられている。無節サンゴモを用いて、海水の浄化実験をおこなった。その結果、無節サンゴモは海水中の窒素濃度を下げ、サンゴの生育を助けることが明らかとなった。この効果に、炭酸カルシウム基盤に生息している硝化細菌が関与していることが示唆された。(4)サンゴ白化の初発原因の解明:サンゴの白化は共生藻の消失が原因である。高水温によって誘導されることが知られているが、細胞生物学的な機序は不明である。プログラム細胞死に関与する酵素活性変化を調べたところ、高温によって共生藻の一酸化窒素合成が高まり、カスパーゼが活性化されることが明らかになった。このことは、高温によって共生藻のプログラム細胞死がおきていることを示唆している。これらの結果は、英文国際誌に掲載あるいは投稿中である。
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