スピロピランアクリレートとN-イソプロピルアクリレートの共重合体からなる高分子ゲルを合成した。このゲル中のそれぞれのモノマー成分の組成は、2:98(mol%比)であった。相転移温度は29℃を示し、これより高温側では収縮し、低温側では膨潤した。また、過塩素酸鉛(II)の水溶液中にこのゲルを導入すると、無色のゲルが黄色に変化した。中性域の水中におけるこの高分子ゲルの色調は赤色であることと上澄み液の電気化学測定(矩形波ボルタンメトリ)の鉛(II)イオン濃度の測定から、鉛(II)イオンの吸着が確認された。本研究課題の計画にある、重金属イオンの濃度を知るための色目表作成に一歩進むことが出来た。重金属イオンの粗定量のために残された課題は、水中の水素イオンとの吸着による色調変化への干渉を取り除くことだけになった。 一方、重金属イオンの精密定量については、420nmの励起光に対して500nm後半の発光がこの高分子ゲルから確認できた。粗定量における課題が解決されればこちらの計画も達成される。 最後に、この高分子ゲルにおける光照射を用いた繰り返しの重金属イオンの吸脱着実験は、予想以上に好ましい結果を得ている。約30回の光照射に対しても全く高分子材料の機能低下が認められなかった。光源に420nmよりも長波長側の可視光を用いているためと考えられる。通常、スピロピランに照射する光は紫外光(300〜380nm)もあるため、照射回数に応じて劣化もみられるのと対照的である。
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