視細胞の光信号変換分子機構で中心的役割を果たす3量体G蛋白質トランスデューシンの蛍光一分子観察に成功した。この試みの成否を分ける重要なポイントはG蛋白質の機能を損なわずに蛍光標識することにあるが、光を受容したロドプシンとトランスデューシンが強い複合体を作ることを利用して両蛋白質の接触面を保護しながら蛍光標識したところ、トランスデューシンαサブユニット(Tα)を選択的に標識することに成功した。蛍光標識としては近赤外蛍光物質のマレイミド化合物を用いた。さらに、ヌクレオチド交換で膜から解離させた後、独自の微量蛋白質精製技術を駆使して精製することもできるようになった。蛍光はトランスデューシンαサブユニット(Tα)の一つのCys残基に導入されており、標識Tαはロドプシンとの光依存的結合能力を維持していた。この標識トランスデューシンを視細胞円板膜に極微量添加し、690nmレーザー光を用いた全反射顕微鏡によって諸条件下に一分子観察したところ、以下のような知見が得られた。 (1)暗黒中でトランスデューシンはロドプシンより若干速い側方拡散を示した。GTPが存在しない条件下、光照射によってトランスデューシンの側方拡散は遅くなった。光照射後の拡散係数はロドプシンの中でも遅い成分の拡散係数に相当している。このことは遅い成分のロドプシンが選択的にG蛋白質活性化に関与する可能性を示唆している。 (2)光照射後にGTPあるいはその非水解性アナログを投与するとTαの挙動は一変し、0.5μm^2/s程度の速い拡散係数を示した。このことは観察しているトランスデューシンが光依存的にロドプシンと結合し、ヌクレオチド交換に伴ってその複合体から解離して円板膜上を自由に拡散し始めるという正常な機能をもったものであることを示している。 本研究によってこうした新しいロドプシン像とG蛋白質活性化機構が明らかになりつつあり、視細胞光信号系のようなGPCRの標準となる信号系において、作動機序を説明する基本モデルに大きな変更を加える可能性がある。正常な機能を保持したトランスデューシンを得ることができたので、そのトラフィッキングの一分子観察にも引き続き挑戦していきたい。
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