研究概要 |
ヒトの代表的な22組織,神経幹細胞,株化細胞2種の全ゲノム(約4千万カ所,十億塩基対)の発現プロファイルを取得,そのトランスクリプトームデータベースとゲノム情報の可視化ツールを構築し,解析を行った.タイリングアレイ実験では通常の遺伝子発現マイクロアレイと比較しより高品質なRNAが要求されるため,RNAの精製方法,自動品質検証体制を確立し,全培養細胞・全組織細胞のRNAの品質を検証した.また完全長RNA調整等のタイリングアレイ実験プロトコルの作製・改良,確認用のqRT-PCR,非遺伝子領域を含めたクローニング法の開発等も行い,全細胞でプロファイリングを行った.発現解析では,周囲のプローブシグナルと最適な平均化法と閾値を計算し発現単位を予測する手法に通常の遺伝子発現マイクロアレイデータを加味し,偽陰性率と感度が最適となる全ゲノム転写発現解析にも応用可能な新たな正規化手法を確立させた.さらなる解析で,ヒト各種組織で全ゲノムに渡り多数の非遺伝子領域が転写能を有し,全転写産物の90%以上がタンパク質をコードしない領域からの転写であることを明らかにした.また各組織に特異的に発現している転写産物を各々数万以上同定した.全ゲノム中の特徴に関し,進化的な塩基配列保存性や遺伝子多型の頻度と転写領域との偏りの解析によりヒトゲノムの構造と転写に関する新たな知見が得られ,また研究対象とする候補因子の絞り込みの新たな手法を提供することが可能になった.全ゲノムのヒト組織発現データベースは世界に類がない.本データを正常組織発現データとし他の癌などの病理組織と比較し,疾患関連因子を非遺伝子領域まで含む全ゲノムに渡って探索することが可能になる.特に組織特有の疾患関連候補探索に有用で,治療ターゲットの探索時には,正常組織での発現の有無から副作用が起こりにくいと予想される分子候補を優先させることも可能になる.
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