研究概要 |
本研究では,社会的な問題となっている病原性細菌である黄色ブドウ球菌由来のホスト細胞への接着に関与する蛋白質を対象とし,立体構造解析を通して,黄色ブドウ球菌のホスト細胞への接着機構を理解し,さらに創薬のための情報基盤を実用可能な規模へと拡張することを最終的な研究目標とする.具体的には,心内膜炎への関連性が指摘されている超巨大蛋白質,EbhAの立体構造を,X線結晶構造解析,小角X線散乱,分光学的解析,電子顕微鏡解析により解析し,EbhAのホスト細胞への結合戦略,並びに疾患への関連性を理解することを目指した.昨年度までに,2つのドメインの連結蛋白質(Ebh-R7-8)のX線結晶構造解析と小角X線散乱,CDスペクトル解析により,各ドメインがアルファヘリックスバンドル構造を有し,それらがタンデムにつながっていることが提案された.当該年度は,更に電子顕微鏡解析を行い,Ebhの全体構造に関する知見を得た.10個のドメインが連結した蛋白質(Ebh-R10-19)の電子顕微鏡解析から,Ebh-R10-19が約500Åのひも状の分子であることが明らかになった.この構造は前年度までに得られた結果とよく一致するものであった.次に,Ebh-R7-8の結晶構造からドメイン同士のらせんパラメータを算出し,得られた値を基に全体分子のシミュレーションを行った.その結果,全長のEbhは約320Åのひも状の分子であり,また,ドメイン間のフレキシビリティにより非常に柔軟性に富むことが示唆された.これらの知見を考え合わせ,Ebhは黄色ブドウ球菌表面に存在し,細胞の強度を補強するための骨格蛋白質として機能していることが提案された.
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