ヒトゲノムが解読された今日、プロテオミクス解析などを通して多くの生体分子が同定されつつある。一方、同定された生体分子は多くの場合、細胞をすりつぶして機能解析されている。しかしながら、真の生体分子の機能を明らかにする場合、細胞が生きたまま生体分子の機能している場所と時間を調べることが極めて重要である。本研究では、希土類金属錯体を用いて分子の生きたままの機能を明らかにする新しい蛍光イメージング法の開発に関して検討した。希土類蛍光プローブは、アンテナ分子と希土類金属錯体の二つの部位から構成される。その特徴として、希土類金属イオンが長い蛍光寿命を持つことから、時間分解スペクトルを測定することにより、短寿命の蛍光成分(細胞の自家蛍光など)を除き、ノイズの少ないS/N比の高いスペクトルを得ることができる点にある。そこで、この特徴を利用し、Ca^<2+>依存性プロテアーゼであるcalpainの活性を可視化する長寿命希土類蛍光プローブの作製を行った。calpainは、Ca^<2+>のシグナル伝達経路に関わる重要なプロテアーゼであるが、その役割について詳細に理解されていない。そこで、その活性を可視化するプローブはcalpainの生理的意義を明らかにするうえで非常に有用である。プローブの設計は、calpainの基質の構造をアンテナ分子に組み込みTb^<3+>錯体と連結するように行った。酵素反応を行ったところ、希土類金属錯体からの発光が観測され、時間分解を行うことにより希土類金属イオン以外の蛍光成分が取り除かれたスペクトルを得ることができた。以上の結果は、生体分子の酵素活性を高感度に検出する基盤技術となり、calpainの細胞における役割を明らかにする上で有用な方法論を提供すると考えられる。
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