研究概要 |
生体内でのシグナル伝達は、リン酸化酵素や脱リン酸化酵素の酵素活性により制御されており、酵素活性の検出はシグナル伝達機構の解明に必要不可欠であるといえる。酵素活性を検出する方法論のうち、蛍光プローブを用いたレシオ測定法は、二つの波長の蛍光強度比の変化として酵素活性を捉えることから、生きたままの細胞で誤差の少ない高精度な測定が可能である。本研究では、脱リン酸化酵素の活性を検出することのできるレシオ型蛍光プローブの創製を行った。 プローブの設計方針は、(1)特定の脱リン酸化酵素と特異的に反応し蛍光レシオが変化するスイッチ機構を組み込むことと,(2)様々な脱リン酸化酵素とそれぞれ特異的に反応するように、酵素に応じてプローブの反応部位を容易に変えることができる基本骨格を持つものを用いることとした。まず、蛍光色素を7-hydroxycoumarinとし、反応部位を7位の水酸基近傍に脂肪族リン酸モノエステルとして組み込んだ。7-hydroxycoumarinは水酸基のプロトン化の状態によって、励起スペクトルが変化することが知られており、予備実験によりプロトン化の状態は、近傍のアニオン性残基により変化させることができることが分かっている。従って、プローブのスイッチ機構の原理は、7位の水酸基のpK_aが酵素反応による脱リン酸化に伴い変化し、励起スペクトルが変化することに基づいている。また、脂肪族リンカーを用いることで酵素の種類に応じてリンカー部位の構造を変化させることも可能である。本プローブと種々の脱リン酸化酵素と反応させたところ、Acid Phosphataseのみ特異的に反応し励起スペクトル変化が観測され、レシオ測定が可能であることが示された。本結果は、脱リン酸化酵素の活性を検出するプローブの新しい設計法を提供するものであり、シグナル伝達機構の解明に大きく貢献すると考えられる。
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