ヒストンのアセチル化、メチル化、リン酸化などによる遺伝子の発現制御の解析が、近年急速な展開を見せている。しかしながら多くの場合、ある部位の修飾に焦点を当て、その機能を分子生物学的に解析するという手法がとられ、ヒストンH3だけに限っても、翻訳後修飾とそれがもたらす機能との関係を俯瞰的に捉えるには至っていない。 最近、限定的ではあるが化学合成された修飾ヒストンをヌクレオソ-ムへ導入することが可能であるとの報告が見られるようになってきた。このことは、化学合成修飾ヒストンを導入したヌクレオソ-ムとDNAとの相互作用の解析、さらにヒストンの修飾構造と機能との相関関係の解析という一連の研究を開始する環境が整ってきたことを意味する。 そこで、申請者らにより開発されたペプチド・蛋白質合成法を駆使し、N^e-アセチル化リシン、Ne-モノメチル化リシン、Ne-ジメチル化リシン、Ne-トリメチル化リシン、Nw-モノメチル化アルギニンなどを含有する多様な修飾ヒストンの効率的合成法を開発することを目的として本研究を行う。また、合成修飾ヒストンを通して遺伝子発現制御の分子機構の解明の推進に寄与する。 本研究では、まず、N末端テイル部位に相当するヒストンH3(1-33)(以後ヒストンテイル)を合成タ-ゲットとし、Fmocペプチド合成法によるNe-アセチル化リシン、Ne-モノメチル化リシン、Ne-ジメチル化リシン、Ne-トリメチル化リシン、Nw-モノメチル化アルギニンやリン酸化セリン含有ヒストンテイルの合成条件を探索する。その結果を基に他種類の修飾ヒストンテイルを正確かつ同時並行的に合成することのできる条件を確立する。また、ここで得られる合成標品は蛍光ならびにビオチン標識を施し、ヒストンテイルの修飾パタ-ンとDNAとの結合実験や結合蛋白質の解析研究に提供する。修飾ヒストンテイルの合成法の確立と平行して、修飾された全長ヒストンの合成法の開発を行う。
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