研究概要 |
初期のC末端標識法は、タンパク質のC末端カルボキシル基を活性エステルの形で求核剤と反応させる反応スキームを用いていた。そこで、アミノ基またはヒドラジノ基を求核性の反応基として含み、同時にマトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)質量分析の検出感度を向上させるための安定な正電荷をもつ基も含む標識試薬が、この反応スキームに適切であると考えられる。実際、その条件を満たす試薬の一つとして、2-ヒドラジノイミダゾリン(Imz-NHNH_2)を用いて、いくつかのタンパク質についてC末端の標識とプロテアーゼ消化を行い、生成物のMALDI質量分析によりC末端ペプチド由来のピークを検出することができた。この成果は論文(Yamaguchi, M.et al.Anal.Chem.78,7861-7869(2006))に報告した通りである。しかし同時にこの反応の問題点もいくつか明らかになった。その一つは活性エステルを用いてもC末端標識の収率が低いことである。そのため、必ずしもすべてのタンパク質でC末端ペプチドのピークは検出できず、方法としての一般性に欠けることになる。第二に、標識の効率が低いと、C末端ペプチドのピークと他のピークを区別することが困難になる欠点がある。この問題は、例えば同位体標識した標識試薬によって、C末端ペプチドのピークに特徴的な形状を与えて解決することが可能であるが、次の第三の問題とともに解決するために、別の種類の標識試薬を探した。第三の問題とは、Imz-NHNH_2を標識したペプチドは比較的感度よく検出できるが、そのPSD(post source decay)スペクトルからアミノ酸配列を読み取ることが極めて困難な点である。そこで、C末端を活性化したタンパク質にヒドラジンを作用させて求核性を持つヒドラジドとした後、これに求電子剤を反応させて標識する改良法を開発した。
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