近年、多くの天然蛋白質の立体構造が次々に解明されているが、天然の蛋白質にとらわれない物理化学的な観点から、どのようなアミノ酸配列が天然様の構造物性を実現し、それがどの様に蛋白質機能に結びついているのかについては不明な点が多い。本研究では、デノボ設計の手法を用いて、進化による選択を受けていない人工蛋白質の合成と解析を行い、構造物性と蛋白質機能の関係の解明を目指す。本年度は、天然には存在しない新規フォールドをもつ人工蛋白質の設計と合成を試みた。 新規フォールドは、λファージ由来Cro蛋白質(λCro)のモノマー変異体の溶液構造を基にして、そのN末からC末への主鎖トレースを、新規構造ではC末からN末への主鎖トレースとなるように書き換えて作成した。具体的には、まず、λCroモノマーのNMR構造情報をもとに各原子間の距離情報を抽出した。得られた距離情報を、λCroモノマーの逆アミノ酸配列に当てはめ、simulated annealingを実行した。得られた構造それぞれを、amber等の分子力場を用いた分子力学計算により緩和させ、その平均構造を最終構造として出力した。このようにして得られた新規構造をターゲットとして、これまでに申請者らが開発した、経験ポテンシャル関数による分子設計法を適用して、新規のアミノ酸配列の設計を行った。計算に組成等の制限を入れずに、目的の立体構造とポテンシャル関数のみを使って得られた配列をコードする人工遺伝子を合成し、大腸菌に導入して発現させた。得られた人工蛋白質の構造をCDやNMRを使って解析した結果、二次構造含量について、目的とした立体構造に対して期待される値より小さく、構造決定に必要な単一な立体構造を形成していないことが判明した。
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