本研究は、医療倫理学の「原則論」「物語論」の関係を検討し、両者の有機的な結合の基盤を構築することを目的とするものである。本年度は、(1)文献資料の収集、(2)ナラティヴ・データの収集、(3)倫理的ジレンマの生成と解消についての物語論的分析、(4)物語論的に構成された倫理的ジレンマに対する、原則論的な検討を中心に研究計画を実施した。総論的な理論研究の成果として、医療倫理に関連した公共政策の分析に物語論的な視座を導入し、<心理的な距離>や<無関心>が保健医療政策にどのように影響を与えうるかを検討した。その一環として、終末期医療における生命維持処置の不開始や中止の問題を特に掘り下げて検討し、欧州各国におけるターミナルケア(ホスピス・緩和ケア)の現状や規制を比較検討した。また、各論的な研究として、【A】性と生殖(性同-性障害、不妊治療等)、【B】終末期医療(生命維持処置の差し控えと中止、ターミナルケア等)、【C】医療資源としての身体利用(臨床試験、臓器移植等)、【D】患者の権利と公共の福祉(精神医療、感染症医療などにおける患者の権利の制限等)の四領域について、ナラティヴ・データによる倫理的ジレンマの再構成を昨年度に引き続いて行った。このうち【B】に関連して難病(神経難病)およびターミナルケア(ホスピス・緩和ケア)、【D】に関連してハンセン病問題、またの分析で具体的な成果を見た。このような理論的な研究成果を、雑誌論文4編、学会発表5件(国際学会での発表3件を含む)として発表した。(次頁「研究発表」の〔雑誌論文〕、〔学会発表〕参照)
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