1 本研究は、吉田一彦、大山誠一とともに、研究協力者に脊古真哉氏(名古屋市立大学等非常勤講師)をお願いし、三人の共同研究として進めていった。なお、脊古氏には、平成19年度より、研究分担者として研究に加わっていただく予定である。 2 本年度の研究は、調査(国内)、学会・研究会活動の両面から進めていった。調査としては、滋賀県の叡山文庫所蔵の資料の研究を進めている。同文庫には、大変貴重な資料が収められており、その調査・研究は大きな研究課題となっている。本年度は、『山家最略記』『山王秘記』『山家要略記』の古写本の実見調査を行なった。天台宗の神仏習合を考える手がかりとなるものと考えている。また、秋に行なわれた大津市歴史博物館特別展「天台を護る神々・山王曼茶羅の諸相」展観の資料からも関連する知見を得ることができた。次に、長野県諏訪市の諏訪大社および周辺の調査を行ない、諏訪大社の神信仰について検討し、原始信仰との連続性、非連続性について考察した。さらに岐阜県、福井県を中心に白山をめぐる地域の宗教史・宗教文化について調査し、神仏習合に関わる寺院、神社を見学し、資料収集を行なった。 3 研究会活動は、東京で開催する(1)「日本思想史の会」(2)「日本書紀を考える会」の二つを拠点に実施した。(1)では日本の思想史をどう構想するかという問題設定の中で、仏教史、神道史、神仏習合、聖徳太子信仰、天皇制などの諸課題について議論を深めることができた。その成果は、平成19年度に、研究書として平凡社より刊行する予定である。(2)では、『日本書紀』の記述をどう読解し、どう評価するのかについて、神仏関係、聖徳太子、天皇制や王権をめぐる記述などについて分析した。あわせて、奈良平安時代の聖徳太子信仰関係資料についても、研究を深めることができた。学会活動としては、仏教史学会第57回学術大会・シンポジウム「<聖徳太子>の歴史像--東アジア文化交流史のなかで--」(仏教大学)に三人が出席し、聖徳太子信仰の諸問題についての議論に参加、発言した。また、アジア民族文化学会2006秋季大会・シンポジウム「<縄文/文様>のコスモロジー-東北アジアの深奥部<井戸尻>から-」(井戸尻考古館)において、大山誠一が「日本古代史と縄文」の研究発表をし、縄文土器から知られる心性と信仰の問題について議論をした。 4 吉田一彦は、「垂迹」思想の受容および展開の問題について、「垂迹思想の受容と展開--本地垂迹説の成立過程--」と題する研究論文を発表した。また、『古代仏教をよみなおす』において、神仏習合についての見解を述べた。さらに、英語圏の読者に向けて聖徳太子問題について私見を述べた(アクタ・アジアティカ91)。
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