本研究の最終年度にあたる21年度は、(1)キケロの修辞学、(2)現代の美学・芸術学における弁論術について、(3)科学研究費補助金研究成果報告書の作成という三つを柱に研究をおこなった。(1)キケロの修辞学については、研究代表者はキケロ『トピカ』を邦訳し、研究会を開いた。研究会の場では『トピカ』の邦訳を検討し、その内容の問題を討議した。キケロ最晩年の著作である『トピカ』の重要性が確認できたが、図式的な記述のわりには複雑な内容であり、とくにストア派の影響を解明する必要がある、ということが分かった。(2)現代の美学・芸術学における弁論術については、連携協力者と研究協力者の先生方に音楽批評の現場と美学理論の現場について報告をしていただいた。現代における「レトリックの死」というロラン・バルトの言葉を待つまでもなく、弁論術は批評としてはいまなお機能しているものの、哲学とはすでに有効な共同関係を築きえなくなっていることがわかった。(3)研究成果報告書については、すでに作成・提出の義務がなくなったとはいえ、本研究課題の交付を受けた4年前に立案した計画に基づいて作成することにした。この研究成果報告書によって4年間の研究成果が報告されるとこになる。ただし、研究代表者が邦訳したキケロ『トピカ』は、この研究成果報告書には掲載されていない。いずれ機会があれば紀要などに掲載し、報告することとしたい。これら三つの柱とは別に、クインティリアヌスの『弁論家の教育』を研究し、また邦訳しているところである。本年度におけるクインティリアヌス研究成果はまだ充分に出ていないが、随時京都大学学術出版会から出版する予定である。
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