研究課題
今年度は、修復に関する問題と自然描写に関する問題を中心に、加筆肖像に関連する研究活動を行い、また、昨年度の研究に基づいて、いくつかの研究発表を行った。修復の問題は、研究代表者が関わった他の科研の報告書のためにまとめたが、芸術作品の科学的調査と深く関連し、こうした調査の過程で加筆肖像が発見されることも多いので、本研究との結びつきも深いものである。ここでは、15世紀のフランドルを代表する《ヘントの祭壇画》の修復史を軸に、1950年の修復前後の思想的変遷を扱う報告を行った。この祭壇画には、肖像ではないものの、いくつかの興味深い加筆が見られる。そこで、加筆の問題が自然主義の問題と深く関わることを探求した。自然描写に関しては、実際の加筆というより、風景表現をめぐる言説の中に、想像力の中で絵の中に入るという陳述のあることをまず論じ(中国の樹石論、ロココ時代のディドロのプロムナードなど)、風景表現の中に肖像を描きこむ具体的な作例(16世紀、アントウェルペンで制作された絵画史上向作品)を探った。さらに、近代と風景表象との関係を論じるシンポジウムに、提題者として参加した。昨年の成果を踏まえた発表としては、《メロド三連画》に関する論文を『美術史』に発表した。また《キリストの洗礼三連画》に関する発表をネーデルラント美術学会(日本語)、国際美術史学会(英語)で行った。また、描かれた風景へ入り込む願望と、加筆の形で絵の中に入り込む事態との関係を論じた発表を国際美学会(英語)で行った。さらに画像一般と観者との関係について、フェルメール作品を対象として扱った論文(英語)を発表した。
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Essays and Studiesby Memhers of the Faculty of Letters, Kansai University 1
ページ: 29-44
美術史 162
ページ: 208-223