研究概要 |
本年度は、本研究の最終年度に当たるので、一年目に行った加筆肖像の具体的事例や分析結果、二年目に行った研究発表での反応を元に、研究成果を英文でまとめた。導入部では、加筆肖像研究の意義を論じた(昨年度の口頭発表“Stepping in apainting,"the XVIIth International Congress of Aesthetics, 13 July, 2007, Ankara, Turkeyがウェブ上の論集に掲載された)。第一章は、ロベール・カンパンの《メロド三連画》、第二章は、ヘラルト・ダヴィットの《キリストの洗礼三連画》を取り上げ(国際美術史学会で発表、2009年6月刊行の論集に掲載予定である)、家門の継承問題を軸に加筆の問題を論じた。第三章は、ハンス・メムリンク《モレーリ三連画》など複数作品を取り上げて、同時代の子供の肖像の加筆にこめられた意味を考えた。第四章は、子や孫などの後世の家族による加筆問題を、先祖へのオマージュとして論じ、第五章は、ロヒール・ファン・デル・ウェイデン《ローラン・フロアモンの二連画》などを取り上げ、個人の肖像の加筆問題をまとめた。第五章は、「1499年の画家」《クリスティアーン・ド・ホントの二連画》などを取り上げ、聖職者の継承の問題を考察した。また、補遺1では、加筆に関する技術的な諸問題をまとめ、補遺2では、肖像が消去された例を、特にヒエロニムス・ボスの作品を中心に論じた。本論は、加筆問題を正面からとりあげた研究として類例がなく、時間差のある絵画面の形成を論じることで、絵画の主題解釈に新しい視座を与えるものとして重要である。
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