研究課題
本研究は、近代東アジアにおける異文化受容の諸相を、その相互影響のプロセスに着目しつつ、近代日本における訳語の成立、近代的諸概念の成立に焦点をあて、調査、考察せんとするものである。平成20年度は、当該分野の必須文献の収集を進めるとともに、研究成果の一端を世に問うものとして、2つのシンポジウムを開催した。まず第一は、代表者である井上が、組織し、司会を務めた、日本比較文学会60周年記念第46回東京大会(清泉女子大学、平成20年10月)のシンポジウム「戦後文学の連続と非連続:1950年代の海外文学との関係を中心に」である。このシンポジウムは、井上が編者を務めた『比較文学研究』第91号(東大比較文学会、平成20年6月)の《戦後日本文学》特集と連動して、本研究の成果を発信する場として企画されたものである。これらにおいて井上は研究分担者と議論を重ねっっ、翻訳出版点数はほぼ倍増したこの時期に、戦争で中断を余儀なくされた欧米文学熱が再燃し、大規模な世界文学全集が刊行され始めたこと、それら世界文学全集には、1920年代半ばから1930年代に訳出されていた「世界文学」(同時代文学にしてモダニズム文学の記念碑的作品)が相当数含まれていた事実にまず着目した。大正期・昭和初期に、観念的、ユートピア的に語られた「世界文学」が、東洋の視座からするその「近代主義」的限界への捉え返しも含めて、現実的なものとして、あらためて浮上してきたのである。翻訳文学における異文化同化のプロセスを、戦前と戦後の連続と非連続の相においてとらえ、それを東アジア文化圏に広げていく視座の有効性が確認できたという点で有効な試みであった。もう一つの成果発表の試みは、研究分担者である菅原が中心になって企画し、司会を務めた、シンポジウム「金素雲生誕百周年記念シンポジウム《金素雲を今いかに語るか》」(東京大学駒場キャンパス、平成20年10月)である。以上の研究活動によって明らかになったのは、東アジア文化圏における、西洋近代の用語や概念の成立過程は、日中韓の三国、三言語文化圏の相互交渉、相互影響が深く関わってくるがゆえに、ことのほか錯綜としたもので、それを解明するには、近現代日本における学術概念・用語の成立過程の、さらなる綿密な調査と分析が必要であるということである。
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言語文化論叢 第14巻
ページ: 45-62
大手前比較文化学会会報 第10号
ページ: 1-11
外国語研究紀要 第13号
ページ: 1-104
比較文学研究 第91巻
ページ: 43-63
國文学 第53巻9号
ページ: 66-73