研究概要 |
変形生成文法と認知言語学の対立として顕在化した議論を進展させるために、本プロジェクトでは形式的,計算的であることを放棄することなく,しかし開かれた伝達システムが「言語」の理解と生成に決定的に関与していることを言語学の基盤に立って明らかにすることを目指している。 今年度の研究の中では、まだすべてが論文形態の発表には至っていないが、講演、学会発表を含めて情報構造とATMの意味論に関しては、以下の点について進展があった。一つは文の階層性の検討である。一方で時間節、目的節や連体節などの従属節の構造と意味の多様性をドイツ語と日本語を中心にして主張した。他方で、ドイツ語のV2(動詞第2位)についていかなる意味的解釈が可能かを検討し、これまでの文ムードとトピック・フォーカスを絡めた議論を先鋭化し、モダリティの観点から意味論的に統一的な説明を探った。 第二に、条件節の振舞いを検討しながら、その時制やモダリティとの相互干渉を議論した。いわゆる現実性推論の問題と、否定極性読みの多義性の問題を取り扱った。 最後に、一見語彙意味論の分野に属すると思われる所有表現(HAVE)の問題を日独英対照の立場から取り上げたが、これは概念形成という優れて認知科学的な問題に一般的に通じるだけでなく、様相(モダル)論理学におけるフレームと到達可能性の自然言語意味論との関連についての事例研究となっている。さらに情報構造との深い係わりを指摘し、言語によって所有表現が存在表現と交替する様を説得的に論じた。 またdynami csyntaxについても、多重主語文を事例として解釈の複雑性を説明した。
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