研究課題
言語のモジュール性を仮定する生成文法では、言語内モジュールとして、音韻、意味、統語を想定している。その脳内基盤を推定する際に有用な神経生理学的指標が、事象関連電位(ERP)である。これまでの研究では、統語処理と意味処理についてはそれぞれ脳内指標が確立されているものの、音韻処理については研究が皆無である。今年度は、日本語のピッチアクセントを取り上げてそのERP成分を探った。その結果、自然音声でも、機械的な合成音声でも、日本語動詞の音韻的な逸脱文に対して、刺激提示後、約400-750ミリ秒の潜時帯で前頭部に陰性成分、750-900ミリ秒の潜時帯で後期陽性成分が観察された。自然音声の意味的な逸脱文に対しては、450-750ミリ秒のN400と750-1200ミリ秒の潜時帯でP600、統語的な逸脱文(Wh-疑問文)では、700-1100ミリ秒後にP600が観察された。成分の開始潜時の分析では、音韻処理が意味処理よりも50ミリ秒、先んじている事が確認された。これらの結果は、i)音韻処理のほうが意味処理よりも先であること、ii)P600は特定の処理を反映しているのではなく、言語処理一般にみられる(domain general)成分であることを示唆している。印欧語では現在プロソディー研究が盛んであるが、今回日本語に特有なピッチアクセントで得られた前頭部陰性波は、今後、脳内音韻処理の普遍性と個別性を探る上で貴重なデータとなる。
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