前近代日本社会は文字による社会ではあったが、反面文盲illiteracy が多く、非文字社会の側面も濃厚に持っており、文字によらない知識によって人々の多くが行動していた。法制度社会に対する不文律、制定暦日に対する農事暦などがその代表的なものと考える。非文字知は経験知・「暗黙知」The tacitdimension と表現されることもあり、ときに民衆知とも表現される。本研究では文字のない世界から前近代、とりわけ中世社会を分析する。文献資料に依存する歴史学がもっとも不得手な分野が非文字の世界である。前近代社会総体の真のありかたを知るために、「非文字知(経験知)」の世界を追跡することは、歴史学には不可欠の作業であるし、有効な視点である。本研究では分析の対象を時間・暦・交通通信・流通とする。
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