研究概要 |
本年度前半の4~12月においては、2008年3月までに調を完了した岡山県倉敷市勝負砂古墳の調査記録と出土遺物の整理作業を行い、その成果の一部を『勝負砂古墳調査概報』(学生社, 2009.6)として刊行した。整理途中の資料についても分析を進め、具体的には、短甲の付着有機質について付着部位と形状の記録を行なった後にサンプルを採取した。また、短甲の部材構成と鋲留技法についてもさらに細かい観察を加えて本資料の編年的位置づけを明らかにした。このような作業を通じて、副葬品のうち馬具・甲冑・鉄製武器・鉄製農工具類の編年上の位置づけに関する検討を深めた結果、勝負砂古墳の築造年代をほぼ5世紀後葉から末の中でも比較的古い段階のものと推定することができ、周辺諸古墳との間での築造順序の確定、および吉備地域の巨大古墳形成過程における年代的位置づけを詳細に明らかにしえた。第二に、4~9月には、2008年度に3D計測調査を終えた竪穴式石室天井石のデータを石室のデータと組み合わせることによって、勝負砂古墳の埋葬施設と副葬品に関する3Dデータの基本的処理をすべて完了し、埋葬施設ならびに葬送儀礼の時間的推移を立体的に表現・分析するための基礎データを確立した。第三に、勝負砂古墳の石室使用石材の岩石学的鑑定を進め、石材の取得位置をほぼ特定するに至った。上記の諸作業を通じて、吉備地域における5世紀の古墳の実像とその歴史的背景を復元するため資料が完備された。 勝負砂古墳の分析を中心とした以上の作業と併行して、吉備地域における古墳時代集落および小古墳の基礎データの収集と整理を進めた。具体的には、吉備地域の5世紀前後の古墳の築造過程と集落の展開過程、人口動態の変化を、現状の資料による限りではほぼ完全に明らかにし、巨大古墳形成過程の歴史的プロセスを、集落と古墳の両面から多角的に解明した。この成果は『吉備地域における巨大古墳形成過程の研究』(2006-2009年度科学研究費基盤研究(B)成果報告書,2010.3)として刊行した。
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