平成21年度の研究目標は、研究最終年度として、原産地遺跡金山に予定した発掘調査の完了と『研究成果報告書』の作成とした。 発掘調査は4地点に設定したが、北1、東1、南1各地点共に有史前に形成されたサヌカイト原石、安山岩を含む安山岩風化土の基盤層を検出して終了した。東1地点は調査可能深度3mをもって既に19年度に終了した。 この調査によって、金山の基本層序と石器生産活動の変遷がはじめて明かとなった。 地表形成石層で弥生時代中期の石核・大型剥片の生産、中間層上部石層群で弥生時代前期・縄文時代晩期の石核と、それに加えて東部に限っては打製石斧の生産、中間層下部土層群で縄文時代前半の石核・剥片・石器の生産、南部に限って旧石器時代の石核・剥片・石器の生産が確認されたのである。また、出土したサヌカイト原石の蛍光X線成分分析によって、金山サヌカイトは東西で2分される事を確定した。 この金山での石器生産活動と消費地での石器生産活動を地較して、金山産サヌカイトの広域流通システムを復元し、先史経済の特質に言及したものを研究成果報告書にまとめた。中四国の地域社会の展開が比較的明かな縄文時代後期において、金山産サヌカイトの石器生産と流通の展開には津島・岡大遺跡群タイプと帝釈峡遺跡群タイプがあり、前者では地域社会の派遣メンバー、後者では専業集団が各地域社会に金山産サヌカイト製石器石材を搬入し、ついで分配によって地域社会メンバーに行き渡ったとした。金山から50km圏内に前者、圏外に後者のシステムが働いたが、後者のシステムを集団間の分配と位置付け得ることに先史経済の物質を求め、同システムと産出規模、瀬戸内海の海運が金山産サヌカイトの広域流通の要因であることに始めて言及したものである。
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