1 研究の目的と方法 縄文時代のクリ利用は、果実の収穫と柱材を得るための伐採の相反する行為を両立していた。これを成立させたシステムの復元は、縄文集落の成立や生業を検討する上で重要である。このために、現生クリ林で年輪・花粉・果実の実証的データを得るとともに、民俗調査によりクリ林管理履歴と果実保存方法を明らかにする。また、縄文時代の掘立柱建物の木柱について年輪解析と加工分析を行う。 2 現生クリ林の調査 昨年度に引き続き山形県小国町金目にある約4haのクリ園で調査を行った。採取した年輪の5年平均成長変動値と管理履歴とを照合した結果、間伐時には成長が1.5〜2倍良く、人為的干渉による成長変化が認められた。落下果実調査では樹冠面積から換算した1アールあたりの収量が4.2〜10.3kgであることを明らかにした。空中浮遊花粉および表層花粉の調査により、クリ林から200m離れるとクリ林の存在が分からないほど花粉量が少ないことが分かった。また、金目集落に伝わるクリ保存処理の再現を行い、虫止めの効果を確認した。 3 遺跡出土木柱の調査 新潟県青田遺跡の木柱の年輪解析により新たに6棟の掘立柱建物の年代関係が明らかになった。また、新潟県野地遺跡の木柱切断試料と石川県真脇遺跡・チカモリ遺跡、福島県荒屋敷遺跡の木柱について年代関係の検討を行った。これらの掘立柱建物について考古学的に新たな組み合わせを検討したほか、木柱直径が小さくなるほど木柱底面の尖度が上がることを明らかにした。
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