本年度は、日本における高年齢者の雇用政策のうち、60歳未満定年を禁止する高年齢者雇用安定法や、募集・採用時における年齢差別を禁じる平成19年改正雇用対策法10条等について、特に他の差別法理との比較という観点からの検討を試みた。その結果、日本のこれらの法規制は、年齢による取扱いを一定程度是正するものではあるが、規制の例外を広範に認め、労使協定による逸脱を許す等の点において柔軟性があることを明らかにした。そして、それらの特徴には、立法趣旨-差別はしてはならないというイデオロギーに基づくというより雇用促進のための政策的な立法であるという趣旨-が反映されていること、定年制や年功賃金等、日本において年齢による雇用慣行が深く根付いていることが背景にあること等を検討した。また、日本では若年層の正社員化の推奨(雇用対策法7条に基づく。)やシルバー人材センター等、年齢による取扱いをむしろ推進することで一定年齢層の雇用を促進しようとしているところもあり、厳格な年齢差別禁止アプローチがとられていないことについても考察を行った。また、外国法研究として、本年度は、年齢差別禁止アプローチを世界で最初に取り入れたアメリカ・カナダについて、特に判例と学説の展開について研究を深めた。その成果として、カナダで定年制が廃止されたこと等、年齢差別禁止法理の広がりが確認された一方で、アメリカでは、被用者給付において制度上明らかに年齢が考慮されていても年齢差別的動機につき労働者がさらなる立証を行わなければならないとする合衆国最高裁判決が出ており、年齢差別の立証が容易ではないとみられること、アメリカの学説においても年齢差別禁止法の実効性・理論的正当性について疑問が提起されていること等が明らかになった。
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