研究課題
本研究は、信託を始めとする財産管理制度の活用可能性を、私法の基本原理の意義・射程と整合的に探ることを目的とする。研究の結果、3年目は、(1)法主体性の理論、(2)物権法理、(3)契約法理それぞれとの関係および、(4)信託につき、次の成果を得た。(1)法主体性の理論との関係につき、フランス法との比較研究を進めた結果、フランスにおいて、一物一権性は、単一法主体への財産の帰属をその中心としていること、しかし、複数の法主体への帰属の可能性に関する議論があることがわかった。後者の見解は、信託を私法の基本原理と架橋する可能性をもつ点で重要である。(2)物権理論との関係では、上記の所有理論のほか、財産の帰属秩序に関する研究を進めた結果、財産の帰属秩序を理解するには、表裏の関係にある不当利得制度を再検討することが不可避であることが明らかになった。(3)契約理論との関係では、財産管理者としての代理について研究を進めた。とくに、代理は民法改正作業とも関係している点で重要である。山本および横山は、改正作業のために組織された民法(債権法)改正検討委員会に参画して、現行民法の立法過程を綿密にトレースし、その後の判例・学説の展開を精査し、諸外国の法制を参照しながら、代理法理のあり方を検討し、現行法を全面的に見直す改正試案の原案を公表した。(4)信託については、イギリスでの調査も踏まえ、(3)と対応させながら、代理権や法人代表者の代表権と同様に捉えられることの多い受託者の権限について考察した。その結果、受託者の「権限」は代理権その他の民法上の財産管理権と異質のものであり、むしろ義務としての性格が色濃いこと、それゆえに、受託者の場合には、代理人や法人代表者の場合と異なり、「権限違反」のなかに善管注意義務違反行為、忠実義務違反行為を含むと理解しやすいこと、権限違反行為の効果も無権代理と異なっていることが明らかになった。
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