研究概要 |
1980年代に本格化した市場経済化によって中華人民共和国の国内総生産は2010年度には世界第2位になると予想されている.中国を構成する諸民族(漢族と55少数民族)の言語文化は,市場経済化の進行とともに変容をこうむるが,その変容のありかたは,少数民族のほうが,その根幹がゆらぎかねないという点で,より著しい. 北京オリンピックや上海万博の開催が象徴する,国際社会における大国としての地位をきずく過程で,漢族の言語=漢語(普通話)は「国家通用言語」としての地位を確立した(2001年).少数民族は市場経済に適応するため,すすんで漢語の学習を自らに課し,かつ民族言語と文化を維持するため,双語(bilingualism)教育を実践している.モンゴル族と朝鮮族は,国外に,モンゴル国と朝鮮民主主義人民共和国および大韓民国という同族の国家があり,建国以来の少数民族政策のなかで果たしてきた役割という点でも,多くの共通点を有する.近年,国外から同族語の影響が,モンゴル族と朝鮮族に影響をおよぼしている. 2009年度も内モンゴル自治区のモンゴル人居住地区および吉林省吉林市の朝鮮族中学を視察し,現場の教員から意見を聴取した.2006年度から開始した本研究をしめくくる目的をもって,日本言語政策学会第11回大会(6月14日,昭和女子大学)で,研究代表者および分担者2名が「中国少数民族における言語維持・言語継承の諸問題-モンゴル族と朝鮮族のばあい-」と題して,中国少数民族政策を歴史的に俯瞰しつつ,改革開放政策以降の中国では,モンゴル語と朝鮮語の基盤が浸食されつつも,憲法が保障する民族平等原則の枠内で,両言語を振興する方策がとられていることを報告した.
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