平成20年度は、本研究プロジェクトの最終年として、一連の個別研究各々の成果をまとめ、「メディアと歴史認識の形成」というコンテクストのもとに総括し、アカデミック領域だけでなく、実際の放送番組制作、学校 教育などの実践現場にフィードバックしていく活動を行った。 保存した番組の個別研究としては、(1)ドキュメンタリーとドラマ的叙述性(2)終戦と議題設定(3)ドキュメンタリーとメタドキュメンタリー(4)戦争は普遍化可能か(5)過去を構成する素材と編集の5つに問題を整理し、分析を進めた。さらにそうした作業を通じて、放送アーカイブの実現にむけた課題の抽出と問題提起を学会および放送事業者たち向けて行うことができた。 とりわけ、この最終年に力を入れたのは、保存した番組研究の対偶に位置する「メディアに描かれない戦時記憶」の研究(鹿児島県垂水市・鹿屋市におけるインタビュー調査と映像制作)である。計4回、20人から収録したオーラルヒストリー映像を元に、56分のドキュメンタリー(現地上映版)を制作した。この作業は昭和19年に錦江湾で起こった海難事故をめぐって、現地の人々がどのようにこの出来事や戦時生活を記憶し、それを伝承してきたかを実際に辿り、そこからテレビドキュメンタリーの制作の手法やそこで扱われる証言の問題を検証する、極めて得難い実践研究となった。
|