インターネットは社会参加に対して、情報源、議論、動員という3つの役割を果たしている。このうち、本研究ではインターネットの議論の役割に焦点を当て、オンライン・ディスカッションでの政治的意見の表明を規定する要因とオンライン・ディスカッションが社会参加に及ぼす効果を明らかにする。研究1では、どのようなグループでのオンライン・ディスカッションが知識の移転や意見の熟考・精緻化を生じさせるのか、またその帰結として寛容性や社会参加の向上するのかを検証するために、2007年にオンラインでのグループディスカッション実験を行った。オンライン・グループディスカッション開始前の事前調査のデータに基づき、2つの社会的争点(教育問題と格差問題)について政治的意見が同質/異質、年齢的に同質/異質を操作して64グループ(1グループ参加者数6名)を作成し、5日議論をしてもらった後、事後調査を実施した(有効回答355)。一方、事前事後の調査のみに回答する200人を統制群とした(有効回答数115)。その結果、統制群に比べて異質な意見のグループや異年齢のグループは議論後に社会的寛容性が増大した。そして、異質・同質に関わらず、オンライン・グループディスカッションに参加することが、パースペクティブテイキングを高め、その結果、政治的寛容性を高まることが示唆された。研究2では、社会的・政治的争点に関するオンラインでのディスカッションを規定している要因を対面でのコミュニケーションと比較するために、20歳から59歳の男女1000人にオンライン調査を実施した。その結果、インターネットでの情報取得は対面・オンラインを問わず政治的議論や社会参加に有意な正の効果を持っており、既存のマスメディアの補完の役割をしていた。ただ、オンラインでの政治的発言頻度に対しては、インターネットの政治ニュース取得は負の効果を、個人や組織がブログやオンラインコミュニティで発信している情報は正の効果があり、同じインターネットでの情報でも異なる効果を持つことがわかった。これはオンラインでの議論を促進する要因が議論のプロダクトでもあることを示唆している。
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