平成19年度は、社会的信頼に関する2つの実証的研究を実施し、分析を進めた。一つは質問紙を用いた全国規模の社会調査であり、もう一つはWebを利用した、委託者選択の情報モニタリング実験である。社会調査では51項目のハザードに対して、それぞれへのリスク認知(年間死亡者数推定)、各リスク管理組織への信頼、各ハザードに対する不安などの評定を求めた。また、喫煙リスクマネジメントを題材として、政府への信頼規定定因を検証するための項目も設定した。詳細な分析はまだ残されているものの、現時店で、ハザードに対する不安は文脈効果が非常に高く、実際の死亡者数について考えてから不安評価を求める条件では、ほとんどの項目において評定値が低下することが見いだされた。喫煙リスクに関しては、高い関心を持つ人はSVSモデルが予測するように価値の類似性認知が信頼を強く規定するが、関心の低い人は伝統的信頼モデルが予測するように、動機づけ要因認知や能力認知が信頼を導くことが明らかにされた。これらの知見は、今後のリスクコミュニケーションプログラムに応用することができると期待される。 一方、情報モニタリング実験は、リスク管理責任者として信任したい人を複数の候補者の中から選択するという課題を設け、最終選択に至るまでの情報獲得プロセスから、どのような要因が信任の必要条件で、どのような要因が十分条件かを明らかにしようとするものである。この実験でも、関心の程度に応じて信頼規定因が系統的に変化することが見いだされ、従来の信頼モデルを統合する方向性が示唆された。
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