研究概要 |
研究1から研究5において,下記のような研究成果があげられた。 研究1 50〜75歳の高齢者について時間の比較判断に用いる知識と作動記憶容量の関係を調べた。また時間の比較判断に用いる知識の実験を行っている間の時間の評価を大学生について調べた。時間の比較判断の正答率と時間評価の正確さの間には関係があり,時間の知識の使用場面でも暗黙のうちに時間評価に頼っていることが示された。 研究2 真実の内容とウソの内容が含まれた2種類の文章を,精神テンポで音読した結果,ウソの文章を読む時にテンポが有意に遅くなった。また,P300による虚偽検出では,刺激認識に要する時間を反映するP300潜時がウソをつくときに遅くなった。つまり,ウソという感情が行動のテンポや刺激の情報処理速度に影響することが明らかとなった。 研究3 様々な部位に損傷を持つ脳損傷者に10秒の時間作成を求める時間評価課題を実施し,学習期におけるフィードバックの効果を検討した結果,学習に失敗した者や学習が遅かった者は,フィードバックにもとづいて,次試行の作成時間を微細に調整する能力に問題が生じている可能性が示された。 研究4 精神科クリニック外来で抑うつ状態の認められる通院患者,および健常な大学生を対象に,抑うつ状態と時間的展望や時間評価との関連を調べた。時間関連性があり肯定的な時間的展望を抱いている場合には抑うつの程度も低いこと,抑うつの改善にともなって時間志向性における過去志向への比重が少なくなっていくことが示唆された。 研究5 大学生を対象とした,数回のレポート課題への取り組みについての追跡的な調査データを分析し,時間管理能力の変容プロセスについて検討した。その結果,レポート作成のために多少の専門知識を要する場合では,課題要求の理解度がある程度高くなければ,時間管理能力の指標の妥当性が保証されないこと,およびメタ認知能力の高さについても統制した上で,時間管理能力の変容プロセスを検討する必要が示唆された。
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