研究概要 |
注意の広さと処理効率のトレードオフに把持動作の実行が及ぼす影響を検討した.実空間で実験を行い,課題は6つの立方体の中から1つの立方体を把持すること(把持動作課題)あるいは検出後素早く指をその場で持ち上げること(統制課題)であった.手がかりとして,ターゲットの提示前に2個,4個あるいは全ての立方体が点灯した.この手がかりによって,注意を向ける領域の広さ(注意対象の数)を操作した.把持動作の運動方向は「遠→近」と「近→遠」の2方向であった.結果は,統制課題に比べて把持動作課題の方が,注意対象の増加に伴うコストが大きかった.このことから,より能動的に対象を選択する事態において,視覚情報処理における注意の効果が大きいことが示唆された.また,把持動作の運動方向はトレードオフの現れ方に影響しなかった.注意のシフトが完了した後には,把持動作の運動方向が注意の空間特性に及ぼす影響は小さいことが考えられた. また,上記の研究と関連させた研究として,行為が知覚・認知に及ぼす影響を検討するためにRepresentational Momentum(RM)という現象を利用して検討を行った.これは,物体が連続して運動している際に突然消滅した場合に観察者に物体の消滅位置を示させた場合,知覚された消滅位置が運動方向にずれる現象である.そこで,新たに実験装置を作成した.具体的には,液晶シャッター眼鏡を用いてこれまでモニタなど二次元平面上で検討されることがほとんどであったRMを現実空間内において検討した.この時,観察者が移動物体に対して能動的な行為を行う場合と,行為を行わない場合を比較した.結果,観察者が移動物体に対して能動的な行為を行う場合にRMは小さくなることが示され,より正確な移動予測が可能となることが示された.来年度もこの観察者の能動的な行為が知覚・認知過程に及ぼす影響について引き続き検討を進めていく.
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