研究概要 |
軟物体を粘弾性体として取り扱い,「かたさ-やわらかさ」と「弾力」が軟物体の粘弾性特性とどのような関係にあるのか,物体の力学特性計測と心理実験により明らかにした.従来の研究においては,我々も含めて,実験材料の物理定数を算出する際に線形力学モデル(5要素Maxwellモデル)を適用していた.このモデルは,例えばスポンジを指で押したとき,スポンジ全体が同じ割合で(押圧方向に)歪むと考える.しかし,実際には指で押さえられている部分の歪みが最も大きく,そこから離れるに従って歪みが小さくなる.すなわち,軟物体の力学特性に線形力学モデルを適用するには無理があった.本研究では,有限要素法を用いることにより厳密な理論解析を試みた.有限要素法は,解析領域(この場合は,実験材料)を微小領域に分割して数値解析を行うことで前述の問題も解決される. その結果,軟物体に触れることによりヒトが知覚する「かたさ-やわらかさ」と「弾力」は,ともに平衡弾性係数が主要な役割を果しており,両者の相関も高い.しかし,「かたさ-やわらかさ」には緩和弾性係数が正の寄与をし,「弾力」には負の寄与をしていることから,両者は明確に異なる成因を持つ心理量であることが明らかとなった. 荷重を制限する実験,及び,指先にキャップを装着して機械受容器に与える情報を制限する実験により,ヒトがやわらかさ評価に深部感覚を利用していることを裏付ける有力な証拠を得ることができた.一方で,機械受容器がやわらかさ評価に重要な役割を担っていることを示唆する結果も得られた.
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